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『エクソシスト急募』新書表紙(初版)

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『エクソシスト急募』新書帯-表面(初版)

『エクソシスト急募』新書帯-表面(初版)

『エクソシスト急募』新書帯-裏面(初版)

『エクソシスト急募』新書帯-裏面(初版)

エクソシスト急募

Exorcist Kyuubo,2010

作:島村菜津

Written by Natsu Shimamura

ノンフィクション

メディアファクトリー(メディアファクトリー新書)/本体740円+税

単行本初版:−

新書本初版:2010年8月31日/総218ページ(40w×15L)

文庫本初版:−

翻訳ホラーを深く読みこなすための知識満載なオススメ必読本

 エクソシズム(悪魔祓い)を行う聖職者「エクソシスト」が21世紀に入ってから増しているという。現教皇ベネディクト16世もエクソシスト支持派だ。
 ヨーロッパで、ヴァチカンで、カトリックで何が起こっているのか。この現代社会でエクソシズム(「強く誓わせる」というギリシャ語が語源)が求められるのはなぜなのか?
 本書は新書ながらも密度が濃く、スリリングで、キリスト教の基本知識も散りばめられています。神と悪魔、光と闇、といったキリスト教二元論的な翻訳ホラーを深く理解するにも役立つことでしょう。文句なしにオススメの1冊です。

目次

章名 内容
まえがき:映画『エクソシスト』の知られざる事実  20世紀最高のエクソシストと尊敬を集めたカンディド・アマンティーン神父(PADRE CANDIDO AMANTINI,1914-1992)が、映画『エクソシスト(The Exorcist,1973)』を少なからず褒めていたらしい。
 少女が宙を浮いたり、首が180度回ったり、という映画的誇張も許される範囲であろう、と評していたという。
第1章
エクソシストが足りない
 カトリックの前教皇ヨハネ・パウロ2世や現教皇ベネディクト16世は、エクソシスト(悪魔祓いを執行する神父、司祭など)の存在に評価を与え、庇護と発展に力を尽くしてきた。
 また、科学的知見が進む現代においてさえ、エクソシズムの要請がものすごい勢いで増加している。
 本章では、悪魔に憑依されたという女性ルチア(仮名)の身に起こった出来事などを取材しつつ、国際エクソシスト教会を率いるグラモラッツォ神父の見解、2002年にレジーナ・アポストローム大学(ローマのキリスト系大学)に開講されたエクソシスト養成講座の事情を解説している。
第2章
カトリックとは何か?
 エクソシストを語る上で欠かせないカトリックの基本知識を解説した章。
 カトリック総本山はバチカン市国(世界最小の主権国家。国土0.44km2は東京ディズニーランドよりも小さい)であり、キリスト教3派でもっとも信者数が多いとか、そういう情報がわかりやすく解説されています。
 ちなみに3派とはカトリック、プロテスタント、正教会です(それぞれに細かく分派されていますが)。
第3章
聖書のなかのエクソシズム
 聖書におけるエクソシズムの描かれ方を考察する章です。
 キリスト教最初にして最強のエクソシストはキリスト本人だそうです。新約聖書にエクソシズムの描写があるそうです。

 本章のもう1つの要が、キリスト教における悪魔の存在理由です。キリスト教は唯一絶対神で、「すべての人よ、善なれ!」です。
 ここがちょっとややこしいんですけど、キリスト教の神は全能ゆえ敵対者は存在しえない。つまり、善悪二元論は成立しないわけです。
 しかし、人間を悪い道へ引き込もうとそそのかす存在はある。それが悪魔である。悪魔にそそのかされないようにするためには、神の庇護を受けねばならない。強く祈りなさい、たくさん寄進しなさい、より大きな神の愛に包まれるでしょう、ということのようです。
 つまり、現代のキリスト教でいう悪魔とは夜空を飛び、牙で生き血を啜り、肉を喰らうモンスターではないです。あくまでも人間の心を背信へ導く誘惑者、と捉えているわけです。

 ここからはちょっと私見です。
 中世期に魔女狩りや異端審問を行ったとき、キリスト教会側は恐ろしい形相の悪魔を絵画や彫刻で作り出し、異教の神々を悪魔として勝手に持ってきた(パズズ、ベルゼブル、インキュバスとか、キリスト教圏における悪魔ですが、他国では普通の神様)。
 教会の都合で悪魔に禍々しい形を与えて「悪魔は怖いぞ」ってさんざんたきつけたわけですね。キリスト教が広範囲に布教し終わると(魔女狩りや異端審問が下火になる)、今度はこう言い出すわけです。
「ウチの神様って全能じゃん。それに並び称す悪魔なんているわけないじゃん」

 紆余曲折があって教会側は、悪魔のとらえ方を元へ戻したかった(リンゴを食わせた蛇というか、誘惑者)。教会側は一件落着なんでしょうけど、民衆側の意識には、悪魔への恐ろしいイメージが根強く残っており、むしろモンスターとしての存在感を強めている(もちろん、小説や映画の影響も大きいと思いますが)

 ちなみに仏教の神様もヒンズー教あたりから拝借してますよね。帝釈天は日本では象にまたがったイケメン仏像が多いですけど、ヒンズー教ではインドラ(戦いの神)ですからね。神様の貸し借りは当たり前なんですね。

 それはともかくとして、この章については正しく要約できているのか、ちょっと自信がないです。ぜひ本をお読みになってください。
第4章
エクソシズムとは何か?
 歴史の観点から見たエクソシズムを解説しています。
 キリスト教には、7つの秘跡(サクラメント)がある。キリスト教徒になるための「洗礼」、聖職者に罪を告白する「告解」、信仰上の告白を行って信仰心を強める「堅信」、最後の晩餐にならってパンと葡萄酒をいただく「聖体拝領」、結婚の誓いである「婚姻」、病人やいまわの際の人に聖油を塗って祈祷する「病者の塗油」、聖職者を任命する「叙階」。
 エクソシズムは7つのサクラメントに続いて重要な儀式である準秘跡(サクラメンターレ)に位置づけられている。

 本章では、興味深い出来事がもう1つ記されている。現代のエクソシストとその儀式を忌避する枢機卿や神父も多数いるらしいとのこと。
 12〜15世紀にかけてキリスト教が率先して行ってきた魔女狩りと異端審問。なんの罪もない人々に残虐な拷問を行い、数万人を死に追いやった。唯一絶対神ゆえに他の神や信仰を認めず、暴力によって是正しようとした愚かさ。この負の歴史が、現代のエクソシズムで再び注目を集め、キリスト教そのものが批難されるのではないか、という恐れからエクソシストの存在を不要と見なしているようです。
第5章
史上最高のエクソシスト
 まえがきでも登場したカンディド・アマンティーン神父(PADRE CANDIDO AMANTINI,1914-1992)のエピソードや人となりを紹介している章。
 悪魔憑きとしてやってくる人々のほとんどが心の病を抱えている人であった。もちろんごくわずかながら本当の悪魔憑きもあった。
 エクソシストと儀式(エクソシズム)は、医学とも交流を持つべきである。
 カンディド神父の大勢の弟子が、いまでも現役のエクソシストとして活躍、または後進の育成にあたっているようですが、かつて弟子にこのようなことを言ったそうです。心に残ったので、そのまま引用させていただきます。
「相談に訪れる者一人ひとりと向き合い、その心の声に傾けるのがエクソシズムなのだ(p104)」
第6章
「悪魔祓い」という聖なる儀式
 エクソシズムの儀式を紹介する章。
 エクソシズムは準秘跡(サクラメンターレ)なので、儀式に決まりがある。
 まず、教区の大司教、または司教から儀式の許可を取ること。
 用いる書物は「ローマ典礼儀式書」。1614年初版以降、数度の改訂が行われている。十字架、聖水、聖油、聖遺物(キリストや聖人たちの遺骨、遺品)。礼服に紫のストーラ(首にかける細長い布)。
 エクソシズムを遂行する聖職者は、悪魔の名やそこにいる理由を問いたださすこと。ただし、好奇心を持って多くを語らないようにすること。悪魔からの質問には答えてはならない。安易に悪魔が憑依していると信じてもいけない(精神病の可能性が大いにあるため)。薬の処方は医師に行ってもらうことなど。
第7章
近代のエクソシズム事件
 ヴァチカンを震撼させた近代事件を紹介。
 エクソシズムの果てに死亡して刑事事件へ発展したアンネリーゼ・ミシェル事件。2005年にハリウッドが『エミリー・ローズ [Blu-ray]』として映画化しました。

 もう1つの事件がアフリカ・ザンビア出身の黒人エクソシスト、エマニュエル・ミリンゴ神父の話。本来エクソシズムの隠された儀式であるが、ミリンゴ神父は開けた庭のような場所で大っぴらに儀式を行った。さらには世界基督教統一神霊協会(ワイドショーなどでおなじみの統一教会)の合同結婚式で韓国女性と結婚。カトリックの神父は結婚が許されてないため、破門されそうになる。のちに統一教会に洗脳されていた、として女性とは別れたようですが…。
第8章
欧米の悪魔主義
 欧米で問題視されている悪魔主義(サタニズム)の解説。
 サタニズムと聞いて管理人が思い出すのは、シャロン・テートを惨殺したマンソン・ファミリーや、映画『悪魔の追跡 [DVD]』だったりします。要するに生け贄を捧げる狂信者、サバトで乱交するみたいなイメージですね。
 しかし、実際のサタニストはそれほど単純なものではありませんでした。
 カルト宗教研究家のマッシモ・イントロヴィーニャ氏いわく、サタニズムはおもに3つに分類されるそうです。
(1)ドラッグや音楽でトリップするアシッド系サタニスト。ファッションに近いのかな?
(2)自らの魂を悪魔に売り渡して巨万の富や権力を得ようと企む人たち。でも、実際に事件を起こすのはまれ。
(3)黙示録世界で悪魔側に付こうとたくらむ終末論者。他人を殺したり、集団自殺する。質の悪い悪いタイプ。

 イタリアで人気のあったサタニズム教団「サタンの子どもたち」の教祖であるマルコ・ディミトリ(1963〜)のインタビューがなかなか興味深いです。
 自称20世紀最大の魔術師アレイスター・クロウリーの影響でサタニズムに傾倒したマルコですが、彼はこう言います。
「キリスト教は単調で空虚で脅迫的な宗教だ。人間こそが神である、という思想に出会ったが、それがサタニズムだった(p172)」
 サタンやルシファを崇拝するサタニズムは、キリスト教と同様に偶像崇拝でしかない、とも言っています。このあたりはちょっと意外でした。
 この教祖様、生活のために夜警のアルバイトをやっているらしいです。サタニストもなかなか大変ですね。
第9章
精神医療とエクソシズム
 イタリアの精神医療制度とエクソシストの関わりを解説。
 イタリアでは1978年の医療改革で、精神病院(隔離病棟を含む入院施設)を撤廃しつつある。これは全世界的な精神医療の流れであり、在宅で人間らしい生活と治療を受けること。合わせて24時間受け入れ可能は地域精神保健センターを充実させて緊急に備える、というものだ。日本はこうした点で大きく立ち後れているらしいです。それはさておき…。

 近代医学において悪魔憑き(性格の豹変、声色の変化、馬鹿力で暴れるなど)は、「解離性同一性障害(昔ふうにいえば多重人格)」として片付ける場合が多かった。ところが最近ではそうではない、と分かってきたらしいです。
 精神科や心理カウンセラーに受診すると、自分が普通ではない、私は心が弱い、何の役にも立たない、他人にもそう見られているに違いないなどと、どうしても気持ちが落ち込んでしまう。
 そのような心の動きが最終的に行き着くのが「悪魔に憑依された」。
 悪魔に憑かれたのだから、普通であるはずがない。自分の力ではどうすることもできない。神と教会が救ってくれる。
 つまり、悪魔はスケープゴートなのですね。
 何軒もの病院で治らなかったのに、エクソシズムを受けたとたんに全快した。その多くの場合、神の存在、祈りの力が心に病の治癒に大きな影響を与えているのではないか、ということです。
 日本のおける狐憑きも同じような状態なのかもしれませんね。
あとがき:エクソシストを巡る旅  EU統合による移民(異教徒)の増加、カトリック信者数の減少、精神医学と信仰の関係性、エクソシストと悪魔憑き、病気と実にさまざまな問題がからみあい、昨今のエクソシスト急募という状態を作り出しているのだろう、というまとめ。