全作品リスト

書名:短編集

書名:長編

書名:掌編集/実話怪談

書名:ホラー関連書

作家リスト

シリーズリスト

特集ページ

サイトトップへ戻る

本サイトについて

更新履歴

累計:

今日:

昨日:

『蟲』文庫表紙(19刷)

『蟲』文庫表紙(19刷)

Mushi,1994

作:板東眞砂子

Written by Masako Bando

長編

角川書店(角川ホラー文庫)/本体504円+税

単行本初版:−

新書本初版:−

文庫本初版:1994年4月25日/総295ページ(40w×16L)

常世蟲がもたらすは人類の安寧か、滅亡か
第1回日本ホラー小説大賞佳作のサスペンスホラー

 富士山を望む河原の公園造成地を訪れた建設会社勤務の多田純一は、土に埋もれていた卵形の石器を見つける。表面に奇妙な文様が施されている。縄文土器の一種かも、と妻めぐみへの土産として東京に持ちかえる。
 マンションで帰りを待つ妊娠中の妻めぐみは、空疎な主婦生活に嫌気がさしていた。残業続きの夫を待つだけの日々。これが私の望んでいた人生なのだろうか。
 出張から戻ってきた純一の様子が一変し、戸惑うめぐみの前に亡き祖母が白日夢として現れる。「蟲が起きた」
 橘の木の下で夫の身体から半透明の巨大な蟲が抜け出るさまを目撃しためぐみは、石器の文様が「常世蟲(とこよむし)」という文字であることを知る。
 常世蟲。人の心を食い荒らす蟲。めぐみの先祖であり、聖徳太子に仕えた秦河勝が打ち損じた最後の1匹が現代の日本に孵化したのだ。
 空高く羽ばたいた常世蟲は人類に何をもたらすのだろうか。

 佳作入選にとどまっているけれど、たいへん高い完成度。日本ホラー小説大賞佳作、という冠がなくても十分に出版できる作品だと思う。商業作家としてキャリアは伊達ではないなぁ、と強く感じた。
 構成、展開、人物の心理や機微、情景などを洗練された文体で読ませる。とくに夫婦関係が破綻していくさまは、ある種の苦みを伴って心に響く。
 一方でホラー小説としての怖さは不足気味。寸分の狂いなく設計図を書いておきながら恐怖を納める器を小さく作りすぎてしまった、という感じ。超自然的な太古の因果である「常世蟲」にもう少しページを割くべきだ。

【サイト登録日】2010年10月31日 【ジャンル】

▽メモ1第1回日本ホラー小説大賞佳作

▽メモ2著者は商業作家

 坂東眞砂子は1986年頃から商業作家として活動。佳作入選以前にも2冊のホラー『死国』『狗神』を上梓しています。
 ※本サイトの主眼はホラー小説であり、著者がタヒチで起こした一連の騒動には言及しません。

▽メモ3常世の虫

 常世の神の正体とされた神変不思議の力をもつという虫。とこよむし。皇極紀「都鄙の人―を取りて」(「広辞苑 第六版 (C)2008 株式会社岩波書店」)

▽メモ4常世の神

 常世の国から来て人間に長寿と富とを授けるという神。皇極紀「―を打ち懲(きた)ますも」(「広辞苑 第六版 (C)2008 株式会社岩波書店」)

▽メモ5土器の描写(p9)

 青みがかった灰色の石器で、大きさは鶏の卵くらい。表面にびっしりと模様が刻まれ、中央で二つに割れる。中には蛙の卵のような丸く白い玉が入っていたが、すぐに消えてしまう。

▽メモ6常世蟲の幼虫は、全長2mほどの蚕(p124〜p125)

▽メモ7常世蟲の成虫は、巨大な蛾。卵を産む(p275)

▽メモ8親友加奈の彼氏が住んでいるのは「大森」(p87)