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『ぼっけえ、きょうてえ』文庫表紙

『ぼっけえ、きょうてえ』文庫表紙

あまぞわい

Amazowai,1999

作:岩井志麻子

Written by Shimako Iwai

短編47ページ/『ぼっけえ、きょうてえ』所収/角川ホラー文庫

Bokkee Kyoutee,1999

「あまぞわい」から響く声は哀切か、怨嗟か
不義密通の末に破滅する業深き男女の悲恋物語

 瀬戸内海の竹内島には、引き潮のときだけ姿を見せる岩礁がある。女の泣き声が聞こえることもあり、長浜村の漁師たちは「あまぞわい」と呼んでいる。
 享保のころより伝わる「あまぞわい」には、2つの謂われがある。亭主の侵した罪をあがなうため、海に身を捧げた海女の女房。夫恋しさに泣く。いま1つは、美しい尼僧を強引に娶った漁師の裏切り。溺れ死にさせられた尼が怨念に泣く。
 島に嫁いできたユミは、岡山市内で酌婦をしていた女だ。船を売って借金の弁済をしてくれた漁師の錦蔵と夫婦になるが、いざ暮らし始めると、夫の熱は冷め、船を失った嘆きが暴力となる。行く当てのないユミは耐えるしかない。
 そんなユミの孤独を癒してくれる男が、網元の息子、恵二郎だった。身体が不自由なために教員の道を選んだ恵二郎は、繊細で、岡山の街にも通じる知的なところがある。誰もいない午後の校舎で深い仲となった2人は、相思相愛となる。そんな逢瀬の現場に踏み込んだ錦蔵は、猛々しい怒りを爆発させる。

 作者の描く登場人物は、爆発するのを待っている節がある。火薬の詰まった樽に導火線の火花が迫っていく感じ。憎悪、怒り、狂気、観念と導火線はまちまちだけど、長さが見えない。いつ爆発するか、とハラハラする。
 本作では、漁村へ嫁いできた女の孤独と絶望、夫が秘める暴力と殺意ともに爆発寸前。そこへ女を理解する間男の登場。華奢で知的だけど、身体的ハンディキャップゆえ、人生のすべての時間を通じて鬱屈を練り続けている。ゆえに女を「あまぞわい」に引き込む役を担う。亡者となっても「わしを想うて泣いてくれるか(p149)」と優しく語りかけてくる。この人が一番怖い。

【サイト登録日】2008年12月10日 【ジャンル】呪い・土俗・民俗・伝承

▽メモ1あまぞわい(p103)

「あま」は、海女または尼を当てる。「そわい」とは引き潮のときに見える浅瀬や岩礁のこと。

▽メモ2酌婦(p111)

「(1)酒の酌をする女。(2)下級の料理屋などで、客の相手をする淫売婦(広辞苑 第六版 (C)2008 株式会社岩波書店)」

▽メモ3水の神様は鉄物が大嫌い(p105)

なぜでしょ?