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幸せという名のインコ
Shiawase to iuna no Inko,2009
作:宮ノ川 顕
Written by Ken Miyanogawa
長編109ページ/『化身』所収/角川書店
Ke-Shin,2009
予知能力を持つオカメインコは天の贈り物か…
人生を踏み外した男がたどる喜劇・悲劇
「インコがほしい」。高校受験を控えた娘のおねだりだった。
私と妻で切り盛りするデザイン事務所は経営が苦しい。インコを飼うゆとりなどあろうはずもないが、思慮深い娘がなにかをねだるのも珍しいことだった。
買い求めたアルビノ種のオカメインコはハッピーと名付けられ、家族の一員に迎えられた。私ですら1日の終わりにハッピーへ語りかけるのが日課となった。
仕事は低迷を続け、いよいよ首が回らなくなったとき、ハッピーがポツリとしゃべる。「バアチャン…」。
老母が倒れ、日を置かずに還らぬ人となったとき、私は兄から遺産の半分を受け取る。借入金を清算し、残った100万円ばかりを株へ投資しようとしたとき、再びハッピーがしゃべった。素人だった私は、ハッピーに導かれ、次々と資産を増やしていく。あくせくと働く意欲を失い、日がな一日パソコンでチャートを眺める私だったが、ハッピーが放った声でさらなる転機を迎えることになる。
不景気だ不景気だ、と陰々滅々な愚痴が並ぶさまにうんざり。いったん楽しちゃうと這い上がるのは難しいよね、という訓話めいた結末にも首をかしげる。100ページ超を費やしてまで語ることかな。
『化身』『雷魚』でも感じたけれど、主人公の置かれた状況や心情に対して近寄りがたい違和感がある。本作でいえば、生活がキツイと嘆く描写がたくさんあるのに、読み手の心を素通りするばかり。胃がキューっと痛くなるほどの焦燥感も伝わってこない。文章以前、ホラー以前の問題であると感じた。
【サイト登録日】2012年1月29日 【ジャンル】動物 鳥 予知 遺産 病気
▽メモ1『雷魚』の主人公少年が自殺したのかも…
「(不景気のあおりを受けて)隣町の縫製業者が首を吊った(p235)」というくだりがあります。これは『雷魚』の主人公、康夫少年のことだと推測します。
両作品とも舞台は北関東(たぶん茨城県)。康夫少年の両親は1970年代当時の縫製業者です。本作の時代設定は現代なので、おおよそ40年程度経過していると仮定すれば康夫少年は50代。引き継いだ縫製業が立ち行かなくなったのかもしれませんね。また、首吊り自殺という点(幽霊化した女性の死因は絞殺)とも符号します。